インタビュー【ロート製薬株式会社 薬事推進部 部長 野依佐千子さん】

今回お話を伺った方

ロート製薬株式会社 薬事推進部 部長 野依佐千子 さん

ロート製薬株式会社にて薬事推進部部長*として活躍されている野依佐千子さんに、ご自身のキャリアライフと女性リーダーについてお話を伺いました。(*取材当時。現在はグローバル開発部部長)

 

ー御社の概要を教えてください
従来よりヘルスアンドビューティーケア領域内でOTCや化粧品といったお客様のニーズに合った付加価値の高い製品を開発しご提供してきました。今後も新ブランドの育成に努め、その分野でトップあるいは主要なブランドを築いていきます。
さらに、私たちを取り巻く社会や人々に奉仕するために、製品の卓越性に加えて、社会的卓越性を提供するソーシャルヘルスケアビジネスを新たに立ち上げます。
このソーシャルヘルスケアをより広く・深く実現するために、私たちは健康の基本である食やサービスなど日常のライフスタイルから医療など先端のライフサイエンスまで、関連するあらゆる分野を統合した「統合ヘルスアンドビューティーケア」へと事業領域を拡げ、進化してまいります。
人々の健康や美容だけでなく、社会の文化、科学、産業の発展、地球環境の保全にも配慮しつつ、期待値を超える商品やサービスを提供し、世界中に美と健康を届ける努力をし続けていきます。

 

●Her Career Story
-キャリアのターニングポイントはいつですか?
いわゆるワンオペ状態で育児をしながら、思いもかけずチームリーダーになった時でしょうか。結婚当初から夫は単身赴任でしたが、親も体調が悪く、夫にも親にも全く頼れない時期でした。その時チームリーダーの話をいただいたのですが、丁度同時に、東京のバリバリ仕事が出来る同年女性もリーダーに昇格して、どうしても自分の中で彼女と比べてしまっていました。子供が小さいからといってリーダーが先に帰って良いのか、自分がサポートしてあげられない分メンバーにチャレンジさせられていないのではないか、リーダーとしての在り方もさっぱり解らず、忸怩たる思いで一杯でした。
そんな頃上司が、「経験の浅いメンバーで、アウトプットはまだまだだけど、チームとしての雰囲気が良いと皆が言っているよ」と言って下さって、「チーム」を評価されたのが本当に嬉しかったですね。その時初めて、おぼろげながらに管理職の仕事を理解したのかもしれません。

 

-周りの人の協力は?
基本的には人にも環境にも非常に恵まれたと感じています。
二人目の子が10か月の時も夫が2年間の出向で単身赴任になり、なんとかその間だけ頑張ろうと思っていたのですが、2年後の辞令は大阪ではありませんでした。親も祖父母の介護で頼れない時期だったので、もう会社を辞めるしかないかな…と思っていました。でも、私が悩んでいるのを察知した上司から「やめたらあかんで。時間的に困ったりすることがあるなら会社にかけあうから」と言って頂き、私自身も、私がいい加減な辞め方をしたら後に続く女性に迷惑をかけるので、その時に任されていた大きなプロジェクトの承認を取ってからにしようと考えて目の前の仕事を一生懸命して、承認が取れた時には、また次のやりがいのある仕事を任されていて・・・気がついたら、ずっと仕事を続けていました。
夫は、ほぼずっと単身赴任のため、物理的なサポートは期待できない状況でしたが、妻としての私に対しての要求は全くといっていい程ない、忍耐強い人なので、居心地は良かったですね。
上の子が精神的に不安定になった時、保育園の保育士さんたちに「父親が不在なのに母親も長時間働いていて、子供と接する時間が短いからじゃないの」みたいに言われたこともありました。当時は、どうしても被害者意識があって、自分は160%位やっているのに、どうして私ばかりが責められるの?と思っていました。
でもある時、その被害者意識が自分を不幸にしているのではないか、と気付いて、布団の中で泣いたらスッキリしました。周りも手伝ってくれるのが当たり前、という思いが被害者意識を生んでいるんだと気付いた時、もしこれから何か問題が出てきたとしても、全部自分が100%責任取る、絶対、人のせいにはすまいと心に決めました。
そこからわりと心は平穏です。人が自分を責める、と思っていたけれど、自分が自分を責めていたんですね。自分がありのままで頑張って、その自分を認めることができれば、そんなに被害者意識は出てこなかったでしょうね。

 

-社員への支援制度にはどのようなものがありますか?
女性社員が6割で働きやすい環境は整っていますし、会社として女性向けの商品は多いですね。薬局で買える妊娠検査薬や排卵日検査薬などはロートがいち早く手掛けたものです。女性向けの水虫の薬など、女性に焦点を当てた商品も多いと思います。
また、女性が生き生き働けるような環境づくりを10年以上前から実施しています。企業内保育所や婦人科健康診断などにも取り組んでいますが、女性だけというのではなく、男性向けの健康診断も出来るようになっています。
副業やダブルジョブも認められていますが、地ビール作りや執筆業など、活躍されている話を聞くと、良い刺激をもらえます。

 

-日本の女性リーダーに必要なスキルとは?
特別なものではなく、普通であることが一番です。
女性の管理職やリーダーが増えたとしても、例えば、家庭を犠牲にして長時間労働する人ばっかりだったら、「私は違うな」と思う人が出てきます。多様性のためにも、いろいろなロールモデルが必要なのではないかと思います。自分のままで良いし、自分のままで努力をする、ありのまま自分らしさを発揮して成果を出す、ということが大切だと思います。
ロートでは、ランクを上げるには自分で手を挙げないと判定されない仕組みになっています。「啐啄同時」というのが理想的な姿だと考えていますが、もう手を挙げて良い状態なのに、「時間的な制約が有るから」等の理由で挙げないということがないように、躊躇しなくても良いことなんだと伝えたいですね。
以前、女性管理職候補の方たちと座談会を行ったのですが、管理職を遠いもの、特別なものとして捉えている人が意外と多いのに驚きました。私も管理職になるまでは、責任が重くなるだけだろうと思っていましたが、管理職になると、入ってくる情報も増えて、違う世界が見えてきます。接する人も変わってきます。いろいろな人との関わりの中で、一人ではできないことを生み出すことは、とても面白いことだと思っています。

-女性リーダーに必要な精神とは?
子供がいる人等は特に、自分の気持ちの面で多少なりとも罪悪感をもって働いている人が未だに多いと感じています。いくら環境が整ったとしてもそういう気持ちを完全に払拭するのは難しいのかもしれないですね。私自身も、「女性は家庭を守るもの」という考えが無意識に刷り込まれていたことに気づきました。自分の精神的束縛から解放すること。今思えば、私の場合は「周りの」というよりは自分で自分を枷で嵌めてしまっていた、というのが一番の障害だったかもしれません。
新しいことにチャレンジしてみる機会を沢山持つことで、自分の能力を高めることができると思っています。実際にでも擬似的にでも、自分が想定していなかったことも含めて経験することが大切だと思っています。私も、もしリーダーに引き上げてくれる人が居なかったら、目の前の仕事は一生懸命するけれど、管理職になることなど考えもしないままであったかもしれない、と感じることがあります。

 

-今後について
海外の仕事が入ってきたことによって視野が広がりました。特に医薬品は国によって規制が違って大変なのですが、規制を理解しているからこそできるチャレンジがあると思っています。今は海外現地からのリクエストに応える、という形が多いのですが、今後は複数の国を横断的に見た上で、こちらから海外に提案できるようになっていきたいと思っています。
会社全体として外国籍の方の採用が増えてきていますが、自分の部門をグローバル化に対応できるようにすることも一つのチャレンジです。英語でコミュニケーションし、海外の薬事担当者との間で直接連絡を取り、議論するのが普通にできるようにしたいと思っています。そして、世界にもっとロートの商品を出していきたいですね。勿論、自部門だけでは出来ないので、他部門とも一緒になって、世界中の人とコミュニケーションを取りながら仕事が出来たらいいなと思います。

野依佐千子 さんはどんな人?

毎朝出かけるまでにしていること
しっかりごはんを食べること、でしょうか。食事が健康の源、と思っているので、きちんと朝ご飯を作って食べています。

モットーは?
「いつも笑顔!」
準備はちゃんとしますが、最後は「どうにかなる」と割と楽観的に物事を捉える方だと思います。

 

■企業情報

名称/ロート製薬株式会社

代表者/代表取締役会長 兼 CEO 山田 邦雄

設立/1949年(昭和24年)9月15日

社員数/1,400名<単体> 6,448名<連結>(2018年3月期現在)

URL https://www.rohto.co.jp/

 

 

あとがき

インタビュー聞き手  WinBEディレクター 鈴木世津
お写真の通り、誰の心も一瞬でほっこりさせる最高の笑顔をお持ちの野依さん。そして人情味を感じるその語り口調に私はすっかり魅せられました。そんな野依さんにも、罪悪感に苛まれたり、悪循環から出られなくしてしまったりした時期もあったと聞き、あらゆる可能性を入り口でシャットダウンしてしまうのは時に自分自身であることを私も身につまされました。そして成長点が突き抜ける時は、内なる自分とそれを見守る周囲とのタイミングが重なる時だという表現にも後続の若き女性たちへのエールを感じました。それをいくつも乗り越えてきた野依さんの目に、次なる新しいチャレンジ=未来が見えているそのワケを知ることができました。

インタビュー書き手  WinBEライター 細井康子
何度も笑いが起き、非常に明るく親しみやすい雰囲気の中でのインタビューになりました。リーダーの心得は「普通になること」。社会通念にふりまわされず、ありのままに努力できるロールモデルが沢山できれば、そこから輝く新たな力が生まれる。新しい道を着実に切り拓かれた野依さんだからこその重いお言葉、希望を頂きました。

 

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