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vol.2【時と海を越えた「未婚化」問題 】

少子化、未婚化、晩婚化。現代の日本社会が直面する問題を並べたように聞こえますが、実は産業革命後のイングランドでも同様の傾向がありました。
工業化が進む以前の平均初婚年齢はすでに、女性が20代半ば、男性が20代後半。日本の数十年前とほぼ同水準です。
驚くべき事実の背景には、結婚後のカップルは両親と別世帯を構えるため、夫の収入が安定しないと婚姻関係を結べなかったという事情があります。
現代における日本の状況と似ていると思いませんか?

19世紀中頃に入ると、男性の海外移住や死亡率の高さ、そして晩婚化の傾向が進むにつれて深刻な社会問題が発生しました。
それは、「余った」女性の激増問題。
男性の数が極端に減り、結婚相手が見つからないため独身を貫かざるを得ない女性たちが50万人以上いたと言われています。1851年の英国国勢調査によると、20代女性の約3割は未婚という結果が。
晩婚化が進んで女性の出産年齢が高まり、子どもの数は減少。親が亡くなった後、貧困に苦しむ女性が増加するといった一連の社会問題が英国政府の頭を悩ませました。

amazonより

『The Odd Women』amazonより

そうした中、1893年に出版されたのが、ジョージ・ギッシングの小説、その名も『The Odd Women(『余った女たち』)』。父親の死後の困窮、不倫、駆け落ち、そして恋愛の挫折といった下層中産階級に身を置く独身女性たちの恋愛・結婚をめぐる葛藤を描いています。
この作品に登場する人物の一人、メアリ・バーフットは、若い女性たちに、「より多様な職業選択と自尊心を持って独立した生活を送ること」の重要性を説きます。“I am glad that I can show girls the way to a career which my opponents call unwomanly.”
(私に反対する者たちが女性らしくないと呼ぶ仕事へ進む道を示すことができて、本当に嬉しいわ。)

ここでいう「仕事」とは、「オフィスワーク」のこと。
当時、自力で生活することを強いられた中産階級の女性に開かれていた道は狭きもので、そのうちの一つは「ガヴァネス」と呼ばれる住み込み家庭教師の職に就くことでした。
あくまで女性の居場所は家庭内、そして伝統的に女性の役割とされた教育に携わるのならば働くことが許されるという前提で成り立っていた仕事です。
家庭の外に出て働くなんてレディにはふさわしくないと考えられていたわけです。

そんな時代背景の中、結婚したくてもそのチャンスがなかった「余った」女性たちの中には、メアリ・バーフットのように時代の逆風に立ち向かう力強さを持った人々もいました。

「新しい女」と呼ばれた彼女たちは、他人との違いに臆することなく、自ら生きる道を選択していったのです。
現在もなお、多様化が進む生活スタイルに対して、寛容さが足りない社会を生き抜くためには何が必要とされるのか?
時代を越えて存在した未婚化問題が、私たちに教えてくれることがあるようです。

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