vol.11【社会を動かした女性たち(7):エリザベス・フライ】
皆さんは、英国の紙幣に描かれている人物をご存知でしょうか?ポンド札の表面はすべて現女王エリザベス2世の肖像画ですが、裏面は紙幣の種類によって異なります。20ポンド札は『国富論』の著者である経済学者のアダム・スミス、10ポンド札は進化論を唱えたチャールズ・ダーウィン。そして昨年新しくなった5ポンド札にはチャーチル元首相が描かれていますが、以前はエリザベス・フライ(Elizabeth Fry, 1780-1845)という女性が描かれていました。 日本人にとってあまり馴染みのない人物のように思えるエリザベス・フライですが、監獄改良に始まり、児童福祉や慈善活動に至るまで幅広く活躍した彼女は、英国人なら誰もが知る18~19世紀の女性活動家です。1780年、エリザベスはノリッジという町の裕福なクエーカー教徒の家に生誕しました。銀行の共同経営者であるジョゼフ・フライと結婚した後もロンドンで裕福に暮らし、生涯11人の子供に恵まれます。そうした環境の影響もあり、若い頃から上流階級の権力者や婦人参政権を求める自由主義思想と触れ合う機会を持ちました。 何不自由なく生活を送っていた彼女でしたが、ある時、監獄内の悲惨な状況と囚人に対する残酷な扱いについて知り、心を痛めます。やがて、仲間の女性たちとロンドンにあるニューゲート監獄を訪問するようになり、現場で見聞きした惨状を人々に伝えていきます。彼女が優れていた点は、囚人も一人の人間として尊重すべきであるという考えを基盤に、囚人にルールを押しつけるのではなく、自ら考えて規律をつくり、守るべきであると説いたことでしょう。1817年にニューゲートの女性囚人のための改善を目的とした協会を設立後、翌年には女性として初めて国会の委員会で監獄改良について意見を述べ、制度改革を提案しました。 さらにその後も、ナイトシェルターや看護学校の設立など、活動の幅を広げていきます。エリザベス・フライの名前は、囚人の人権や監獄内の改善を訴える運動を率いた初めての女性として、また英国慈善活動を代表する慈善家として、そして女性の権利を主張する女性活動家として、後世に語り継がれました。彼女の活動はヴィクトリア女王に支援され、またナイチン・ゲールの活動に刺激を与えた上に、後に福祉大国と呼ばれる英国に慈善の精神を広めたという点からも、その功績が大きかったと言えます。 ところが、彼女の名前を知る日本人は残念ながら多くはないでしょう。日本史に登場する女性が卑弥呼や北条政子に代表される政治権力者(もしくはその妻)か、清少納言や樋口一葉のような文筆家に限られるのと同じように、私たちが学ぶイギリス史(世界史)にも、表舞台には登場しない女性活動家が、たくさん存在しているのです。 |