vol.4【100年前の女性たち-イギリス婦人参政権運動-】
今回は、2015年にイギリスで制作された映画『未来を花束にして』のご紹介から始めましょう。 この映画は、1912年のイギリスが舞台。原題の 『Suffragette(サフラジェット)』とは、20世紀の初め、婦人参政権を求めて過激な活動を続けた女性たちをさす言葉です。 行動することで意思表示し、投票権や親権さえも与えられなかった時代を必死に生きた女性たちの姿が鮮明に描かれています。
主人公のモードは、夫と共に洗濯工場で働く一児の母。ある日、街で投石して窓ガラスを割るサフラジェットたちの過激行動に遭遇します。さらに、彼女たちが議会の公聴会で工場での劣悪な労働環境について発言したことをきっかけに、モードは「サフラジェット」の思想に関心を寄せ、自らも活動へ参加することになります。やがて活動に関わったがゆえ収監され、夫や息子と離ればなれに・・・。家族、住み家、仕事を失ったモードを支えるのが、ヘレナ・ボナム=カーター演じる薬剤師のイーディスや、工場の同僚であるバイオレット。 また、メリル・ストリープが女性参政権運動を展開したWSPU(女性社会政治同盟)の指導者・エメリン役で出演しています。
豪華なキャストに加え、史実に基づいたストーリー展開がこの映画の大きな魅力でしょう。 登場人物のエメリン・パンクハーストやエミリー・デイヴィソンは実在の人物。劇中に出てくるエメリンの扇動的なスピーチやデイヴィソンの決断と行動は、20世紀初頭を生きた多くの女性の心をつかみました。 また、監獄に入れられたモードたちがハンガーストライキ(断食)を実施し、強制食餌されるシーンは、非人道的に扱われた「サフラジェット」たちの生々しい姿を映し出しています。
さらに、イーディスの活動を積極的に支える夫の姿も映画の中で光りました。 日本の婦人参政権運動が女性を中心に進められたのに対し、イギリスでは女性が運営する組織や男性独自の支援団体に加入する男性が少なくなかったのです。 一方、夫の理解を得られず、火傷の危険やガスによる健康被害、工事長のセクハラに耐えながら洗濯工場で働かなければならない労働者階級のモードとバイオレット。イギリスの複雑な階級社会の縮図が描かれているという印象を受けました。
エンドロールでは、世界各国の婦人参政権成立年が流れます(残念ながら、‘Japan’の文字は見当たらず…)。 世界初の女性参政権が認められた国はニュージーランドで、1893年のこと。イギリスでは1918年に制定された国民代表法により、30歳以上の女性に議会選挙権が与えられました。日本では第二次世界大戦後の1945年に初めて、女性の選挙権が認められます。 最後に登場したサウジアラビアの“2015年”には、多くの人々が驚かされたことでしょう。
ちなみに、当時の女性たちがみな過激な行為に走ったわけではありませんでした。モードたちとは違うやり方で活動した者(穏健に婦人参政権運動を行った「サフラジスト」と呼ばれた人々)や婦人参政権運動そのものに反対する者もいました。 それではなぜ、モードがすべてを投げ捨ててまで過激な参政権運動に加わったのか? 映画を観ながら、そして自分のことに置き換えながら、問いの答えを探してみてはいかがでしょうか。 (公式サイト:未来を花束にして http://mirai-hanataba.com/)
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